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NHK BSで、流行感冒を観た。めちゃくちゃ面白かった、志賀直哉の同名の小説が原作。

大正7年の秋、スペイン風邪の流行に右往左往する人々の暮らしを描いた作品。写実の名手と言われる志賀直哉だから、ちょうど100年前の日本は本当にこんな感じだったのだろう。ドラマを観ていて何が面白いって、どれもこれも昨今の日本の状況と同じなのである。

作家先生(本木雅弘)は、初めての子供を生まれてすぐになくしていることもあって、西洋で大流行し日本にも上陸してきた流行感冒(スペイン風邪)が大事な娘に伝染るのではないかと気が気でない。

今年の村の運動会は中止にすべきであると村長に直談判に行く。ところが、村長と校長を交えて話した結果、準備してきたものは変えられないという理由で強行される。これって理屈は、ちょうど今現在全国を廻っている聖火リレー、東京オリンピックと同じではないか?

憤る先生は、運動会を楽しみにしていた娘の佐江子には絶対に行ってはならぬと言う。

とは言え、自分は仕事の都合で路面電車に乗って都心に出る。帰りには行きつけの飲み屋でちょっと一杯。でも、さっき聞いたばかりの「さ湯を飲むと流行感冒にはかからないらしい」という言説を信じて、一杯目は白湯を注文して主人(石橋蓮司)を驚かす。

現代人の振る舞いとそっくりで本当におもしろい、その現代人である家の相方は、毎晩白湯で喉を潤しているし(笑)

飲み屋の主人は「先生、人間死ぬときは死ぬんだから」などと鷹揚だが、だんだん感冒が流行りだした頃になると、咳をしながら入ってきた客を有無を言わせず追い返してしまうようになる。

先生の家には女中が二人いる。そのうちのひとりである石(イシ)は近所の娘を行儀見習い的に預かっている形である。石は芝居が大好きで、いつも「金色夜叉」の物真似をして家族のみんなを楽しませている。

しかし、今年は毎年村にやって来る旅回り一座の公演には絶対行ってはならぬと先生に命じられる。先生の言いつけだから素直に聞こうという気はあるのだが、しかし、石はどうしても芝居が観たくて観たくて我慢ができない。

芝居当日、薪拾いに行っていたと言って遅く帰ってきた石を、先生は芝居を観に行っていたのではないかと疑い辛く当たるが、妻の春子(安藤サクラ)は石をかばい、先生を非難する。そうこうするうちに、ついに先生の家からも流行感冒の患者が出て…という話。

どれもこれも本当に今と同じなのである。環境も心境も。

びっくりしたのは、この 100年前の世にすでにマスク警察がいることだ。いや民間人ではなく、文字通りの警官が、オイコラ警察と呼ばれてたころの偉そうな警官が、マスクなしに往来を歩いている市民を呼び止めるのである。

ドラマの脚本がテンポよくリアルで良い。石を演じる古川琴音が如何にも大正時代の女中っぽい健気な感じの中に現代的な可愛さもあり、とても玄人受けで名前覚えておかねば。モックンと安藤サクラは相変わらずで流石。

一部背景を合成したと思われるシーンもあったが、路面電車が停車場に滑り込んでくるシーンが撮れるくらいの立派なセットを建て、これは却々大したものだった。

もし再放送があったら是非ご覧になると良い。そこには今のあなたや私がいますから。

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